英国政権交代のドラマ 


どうなることかと思われていた政権も、5月11日午後8時ごろから急展開しました。日本でも大きく報道されたそうですが、そこにいたるまでの「ドラマ」は詳しく報道されなかったようですので、ぜひお伝えしたいと思います。

ドラマティックな方法を好む英国人らしく、まるで政治ドラマか映画をみているようでした。ゴードン・ブラウンが前日に労働党の党首を辞任しましたが、総理大臣の地位はそのままでした。ところが午後8時から多くのテレビ番組が突然番組内容を変え、総理官邸から生中継で「政権交代」を報道し始めました。

首相官邸であるダウニングストリート10番の前で首相退任のスピーチをし(下書きを時々みていました)「この素晴らしい民主国家、連合王国の首相を務めたことは誇りです。首相を退任することをご報告するとともに、誰も自分から取り去ることのできない仕事である夫と父親に戻ります。サンキュー、アンドグッドバイ」と涙のたまった目でしめくくり、奥様と二人のまだ小さな息子さんと手をつないで首相官邸から去る姿には、彼を嫌っていた人でさえも涙を流していました。

トニーブレアと違い、絶対に子供たちをカメラの前には出さなかったゴードン・ブラウン。首相最後の日に息子さんたちの初のマスコミ披露です。ゴードン・ブラウンは奥様とそのままバッキングガム宮殿にむかい、女王陛下に退任の報告をしました。彼の車が去ってすぐにデビット・キャメロンと奥様の乗った輝くシルバーのジャガーが宮殿にやってきます。

伝統にのっとり、女王陛下がデビットに新しい議会をつくるようにデービットに依頼し(form the next government)、デービットがそれを承諾し、女王陛下の前にひざまずいて、女王陛下の手に忠誠のキスをします。その後前首相が去ったばかりの首相官邸に到着し、首相就任のスピーチです。

白髪だらけですっかり疲れた様子のゴードンブラウンの後だけにデービットの颯爽とした姿には、党の交代だけではなく世代交代も感じさせる瞬間でした。43歳最年少(13年前トニー・ブレアも43歳で就任しましたが数ヶ月の差でデービットが最年少となります)という若い首相デビット・キャメロンが、何の下書きも見ず(英語ではno note speechといわれ若い新しい政治家の姿とされています)、まっすぐにたくさんの記者とカメラをみて力を込めて演説する姿は、まさに「英国が世界に誇る現代の若い政治家」です。

現ロンドン市長のボリス・ジョンソンも保守党で、デビット・キャメロンとはイートン校時代からの友人です。連合政権ということで、自由民主党の党首ニック・クレッグが副首相。彼も若い43歳です。ちなみに彼のお母様は子供の頃日本軍の捕虜収容所にいました・・。

ドラマをみているような急な交代劇と演出に、つい香港返還を思い出しました。

100年前とおなじように軍艦で香港から去っていった英国人。チャールズ皇太子をはじめ全員軍服姿で香港がみえなくなるまで敬礼をしたまま・・・あの様子も映画のようでしたね。この後も毎日英国のマスコミはこの連合政権のことを取り上げていますが、ほとんどはデービット・キャメロンとニック・クレッグのことで、「今一番熱いカップル」「苦しいときも幸せなときも死が二人を離すまで一緒」などからかっている記事がほとんどです。「スーツも同じ、髪型も同じ、奥様も同じ」なんていうまるで子供をからかっているかのような記事もありました。ただ、正直、私もこのお二人は似ているとは思いました。

二人とも一流学校をでた「お坊ちゃま」で、英国が世界に誇る「テーラードスーツ」を着こなし、同じく英国が世界に誇る「モダンジェントルマン」で奥様にお茶をいれたり家事も手伝います、何も見ないで演説や討論ができ、なまりのない美しい英語を話し、奥様も美しいキャリアウーマン・・。

英国では離婚率がどんどん高くなっています。この二人も離婚ということにならないことを祈ります・・。

余談ですが、ゴードン・ブラウンのスピーチの中で「連合王国」という言葉を使いましたがこれが日本語での正式な英国の呼び方です。皆様もご存じのように英国はイングランド・ウェールズ・スコットランド・北アイルランドの連合国家です。

生徒様から質問をいただきましたので、念のため確認です。

連合王国:U.K. (イングランド・ウェールズ・スコットランド・北アイルランド)

グレートブリテン:(イングランド・ウェールズ・スコットランド)

ENGLISHは、イングランド人を意味し、「英国人」ではありません。日本語の「英国人」は英語ではBRITISH となります。

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